忘年会シーズンの定番といえば鍋を囲んですき焼きというのは一昔も二昔も前のこと。よく似た名前にうどんすきがあるが、これは魚介類でおいしくなった汁にうどんを入れて煮込む料理であり、忘年会ではマストの一品でもあった。現在でもおそらく人気鍋料理の一つではないかと思う。80年代、90年代は食習慣がどんどん贅沢になり、高カロリーのすき焼きは敬遠されたのか、水炊きが忘年会の主流を占めるようになった。
あれほどあちらでもこちらでも忘年会の席をにぎわせたすき焼きだが、肉料理のレシピがバラエティーに富んで、おまけにエスニック料理がどんどん紹介される時代となって、焼き肉、鉄板焼き、バーベキューと鉄板を囲んでできたての肉をふーふーとさましながら食べる贅沢感が主流となっていったのではないか。
誰もが「じゃ、すき焼き」と言下に決まることはあまりない昨今になっている。すき焼きは、むしろ、大衆の食べ物から豪華料理へと変身しているように思う。
昔、職場の仲間で囲んだすき焼きで満足感と幸せ感を一杯味わったなと思い出しながら、肉屋の前で驚いた。すき焼き用の肉が一枚一枚きれいにラップされていて庶民の食べ物の名残がない。食通のための特別な料理のように恭しくショウケースに並べられていた。
せっかく肉屋の前に立ったのだからと何日分もの食費大をはたいてその肉を買った。家族の食卓にでたすき焼きを囲んで全員が威儀を正して肉を仰ぎいただいた。そうだったのか。すき焼きはもはや大衆食ではなくなって、忘年会のリストから外れていったのだ。合点した。